こんにちは! 管理栄養士の菊池真由子です。
今回も、「あしたの健康」をお読みいただきありがとうございます!
今号は、私が学生時代からその用語を知って以来、専門書を読むにつけて探求をしてきた「空気の味」についてご紹介します。
そもそも空気に味があるのでしょうか?
空気にはニオイがあることは皆さんご存じです。
料理の香ばしいニオイ、工事現場の塗料のニオイ、花の香しいニオイなどです。
では味はどうでしょう?
実は空気に味があるのです!
正確には「空気が味を与えている味」なのですが、立派な味覚を構成する要素なのです。
空気の味がもっとも輝くのが洋菓子の「ムース」です。
ムースはゼラチンで柔らかく固められていますがなめらかな口当たりは残るのは空気がしっかりと入りこんでいるからです。
ムースは様々な果物のピューレ(裏ごしした果肉)で作られますが、同時にメレンゲ(卵白をしっかりと泡立てたもの)を加えてさっくりと混ぜます。
ここが調理人の腕のみせどころで、いかに泡、つまり空気をつぶさないように混ぜるかがなめらかでふんわりとした味の決め手になるのです。
*メレンゲとは、卵白を白くなるまで混ぜ、更に途中で砂糖を加えて甘みを加え、ピンとツノができるまで泡立てたものです。手動では泡立て器を使いますが、長時間泡立て続けてメレンゲに仕上げるのはプロでも敬遠しがちな力仕事。電動の泡立て器を使うのが一般的です。
*メレンゲの写真はこちらから(お使いの携帯電話機種によっては対応していないサイトなのでご注意ください)
つまり、空気が充分に混ぜ込まれていないと美味しいムースができないのです。
空気はこうして混ぜる材料によって味がついて美味しく食べることができるのです。
メレンゲという焼き菓子もありますが、これも卵白を泡立てたものに砂糖やフリーズドライの果汁や色素などを加えたものです。
しかし、甘い味はするものの、主たる味わいはそのサクサクとした食感。これも空気の味なのです。
ふわふわの食感を楽しむシフォンケーキもメレンゲの泡をいかにつぶさないでケーキ生地に空気をたっぷりと抱き込ませることで柔らかさが違ってきます。
いかにケーキ生地のなかに均等に空気を抱き込ませるかが、作り手の腕が問われる部分なのです。
逆に空気がないとおいしさが激減するのがアイスクリームです。
アイスクリームも冷やし固める前に材料をしっかりと泡立てているのです。
作り方を知らなくても「溶けてしまったアイスクリーム」は美味しくないですよね。これは温度がぬるくなった影響で空気が外にでてしまい、固形だったアイスクリームが一気に液状になってしまったためなのです。
一度溶けたアイスクリームを再度冷やそうとして「カサ」が減っていることに気がついたことはありませんか?食感も悪くなっています。
これがまさしく空気を逃している証拠。空気がなくなってしまったアイスクリームは美味しさを失っているです。
逆に空気が美味しさを邪魔する代表例が「茶碗蒸し」です。
なめらかな食感を楽しむ茶碗蒸しですが「す(細かな空気の泡)」が入っていると、ぼそぼそとした食感となり、美味しさが半減してしまいます。
「空気」が入ってしまってはダメなメニューなのです。ほかにも、プリンやゼリーも空気が入っては台無しです。
このように「空気」というのは一緒に使う食材の美味しさを引き立たせる「隠し味」だったのです!
そして、通常の隠し味とは違って「使ってはいけない料理がある」というところが空気の味の特徴なのです。
調理用語に「炊く」というものがありますが、学生時代の恩師に「炊く」は炊飯にしか使わない用語なので間違わないようにと指摘されたことがあります。
「炊く」という用語は、「煮る」と「蒸す」を両方使う調理方法だから米にしか使わないと教えられました。確かに日本には専用の「炊飯器」があるぐらい米への調理にこだわりがありますよね。
なるほど、と思ったのですが、私の出身である関西地方は、煮物全般を「煮る」と言わずに「炊く」と表現しまうのです。
例えば「今日は魚、炊いたから」「かぼちゃの炊いたん、食べる?」といった具合です。
折角教えて頂いた知識も日常生活に溶け込んだ「炊く」文化には勝てませんね。