こんにちは! 管理栄養士の菊池真由子です。
今回も、「あしたの健康」をお読みいただきありがとうございます!
今号も皆様の「あしたの健康」にお役立ち出来る情報を、身近なテーマとして書いています。
今回は、一部で話題になっている低速回転ジューサーの健康効果について解説していきます。
低速回転ジューサーは、文字どおり従来のジューサーに比べて回転がゆっくりでそのためにジュース素材に含まれるビタミン、ミネラル類が多く残り健康効果が高いジュースができる、と広告されています。
そこで、私はある噂を聞いたのです。
がん治療の待合室で「低速回転のジューサーで作った人参ジュースががんに効く」という内容です。実践している人もちらほらいて、人参の本数も1日5~6本、多い人になると12本も使ってジュースとして愛飲しているとか。
これは果たして本当なのでしょうか?
そこで、低速回転ジューサーを製造販売している代表的な家電メーカ2社のカタログを取り寄せ、低速回転ジューサーの特徴とどのように栄養素が多く残っているのかなどを調べてみました。
2社のカタログには、ところ特徴が2つありました。
1)特定の食品で作ったジュースに含まれる栄養素を通常ジューサーで作ったものと比べて、特定の栄養成分の含有量が多いことを示したグラフがある
2)凍った食材からフローズンデザートができる
ということです。
そこで注目すべき点は1)です。
カタログにはジュースに使った食材、栄養成分がどの程度増えたかの棒グラフ、増えた量を強調する吹き出しイラストが掲載されています。
栄養素が増えた量を示すための分析は2社とも第三者機関によるもので信頼がおける内容でした。
カタログで取り扱っている「増えた栄養成分の種類」は2社で異なり
A社はビタミンC、カルシウム、鉄
B社はポリフェノール(りんご)、ビタミンC、ペクチン(トマト)、葉酸
で、約10%アップ程度のものから約2倍までありました。
しかし、1つのジュースで上記栄養成分全てが増えているわけではなく、例えば、りんごジュースなら、通常ジューサーに比べてポリフェノールが32%増えている、というもので【1つのジュースにつき1種類】の栄養成分の摂取量のアップが示してあります。
言い換えると、1つのジュースで1種類の栄養成分しか摂取量がアップせず、しかもそのジュースも「オレンジジュース」「小松菜ジュース」というように特定のジュースにしか摂取量アップが示されていないのです。
もしかすると、どんなジュースでもある程度の様々な栄養成分の摂取量が少しはアップするかもしれませんが、基本的にはカタログにあるジュースの種類以外では栄養成分の摂取量の増加は確認できない、ということになります。
また、ジューサーのため、絞りかすがでてしまいます。この絞りかすには食物繊維など様々な栄養成分が豊富に含まれています。絞りかすまで口にしないとジュースとして使用した食材を「料理として食べた」ことと同じ健康効果は得られないのです。
そこで2社ともに、付属品としてレシピブックがあり、絞りかす応用レシピが収録されているとありました。
しかし付属品の冊子に豊富にメニュー例が掲載されているとは到底思えません。
やはり絞りかすは捨てることが多くなってしまうと想像に難くないです。
すると、食材から得られる健康効果がそのぶん減ってしまう結果になります。
栄養成分摂取量増加を示すグラフも注意深く読む必要があります。
例えば、オレンジ200g+人参100gを使用したジュースについてビタミンCが約10%増えたというグラフがありました。
約10%と書いてあると、結構増えているような印象になります。
しかし実際の量をみると、ビタミンC含有量が61.4mgから68.1mgに増えただけで実際の増加量は6.7mgです。
しかし日本人の食事摂取基準2015年版では1日に摂取が推奨されるビタミンCの量は100mgです。
つまり、100mgが目標なのに、増加量が6.7mgでは少なすぎるのです。
つまり、低速ジューサーでもあっても
1)栄養成分の大きな摂取量増加は期待出来ない
2)絞りかすがでてしまい、捨てると
それに含まれる栄養成分を逃してしまうということがハッキリしました。
そこで、最初に立ち戻ってがんで闘病中のかたに、「低速回転ジューサーで作った人参ジュースが効果があるか」、ということに関して検討してみると上記結果より、「期待しないほうが良い」ということになります。
つまり、噂は栄養学的にはデマということです。
また、効果を信じて人参を集中的にたくさん食べることは栄養のバランスを崩してしまいます。
人参そのものはがん患者さんにおすすめの食品の1つではありますが、あくまで、一般的な料理で食べる量でのことです。
もちろん、「低速回転で作った人参ジュースを飲み始めて体調が良くなった」など、自身にとって良い効果が実感できているのであれば「効果があった」と判断して良いものです。
しかしながら、一般の方が、低速回転ジューサーで作ったジュースのほうが従来のジューサーで作ったジュースより栄養が豊富と考えるのは、早計といえます。
これは効果が明らかになっている食品がカタログ上の数種類の野菜・果物に限られているからです。
しかもジューサーなので絞りかすを捨ててしまうとジュースの材料として使った食品の健康効果も減ってしまいます。
野菜ジュースを手作りするなら、ジューサーの回転数にこだわるよりもミキサーを使用して、材料にする食品を全て口にしてしまうようなスタイルにするほうが健康効果が高いと言えます。
今回のような噂があれば検証してみたいですので、真相を知りたいような話やご質問などをぜひお送りください。